思考と心を整え、世界の見方を変える――哲学研究者・教育者の近内悠太さんによる「心を整える哲学の部屋」シリーズ。第14弾のテーマは「わからなさ」です。現代を生きる私たちは、ビジネスの言葉に関しては「解像度の鬼」です。KPI、コミット、バリュー、エンゲージメント、タイパ、市場価値――。砂利の粒を分けるように細かく日常を言語化し、効率よく成果を生み出し、自分や周囲をコントロールするための用語を私たちは大量に持っています。しかし、そのシステムの外側に出た途端、私たちの言葉は急に貧弱になります。効率や数値では測れない大切な何かを語ろうとするとき、手元にあるのは「愛」や「家族」、「ていねいな暮らし」や「エモい」あるいは「精神的な豊かさ」といった、ありきたりな言葉、分かるようで分からない言葉、つまり「解像度の低い言葉」だけになってはいないでしょうか。ビジネス用語の解像度ばかりが上がり、それ以外の領域の言葉が空虚になっていく。これは、私たちが「数値化もコントロールもできない豊かさ」を味わうための言葉を、あまりにも持たなすぎるという、精神の静かな危機なのかもしれません。名前がついた瞬間にタスク化され、評価の対象になり、消費されていく「こちら側(此岸)」のゲーム。そこから一歩を引いて距離を置き、ビジネス的日常の「外側」へと目を向けてみます。いわば「非-生産的な生活」の価値をもう一度思い出すことを目指したいと思います。そんな外側には、別のものさし、別の価値があるはずです。4日間を通して、死、占い、青年期(モラトリアムの終わりと葛藤)、そしてSFという「ここではないどこか」をくぐり抜けてゆきます。これらはすべて、ビジネスのロジックが最も嫌う「予測できないもの」「割り切れないもの」「名づけられないディテール」たちです。本講座では、生産性という強迫観念の檻から脱出し、割り切れない日常の手触りを取り戻すための、新しい「語彙」と「視座」を哲学や思想の補助線を借りながら一緒に探していきます。いわば、日常の向こう側へ至るための「裏口の鍵」のような講座になればと思います。